大雨、台風、地震、津波——日本は様々な自然災害が発生しやすい国です。あなたは自分の住んでいる地域でどのような災害が起こりうるか、把握していますか？ 災害時にはどこに避難すればよいか、事前に知っていますか？
本記事では、命を守るための重要なツールである「防災マップ」について徹底解説します。基本的な知識から作り方、最新のデジタル防災マップの活用方法まで、あなたとあなたの大切な人を守るために必要な情報をお伝えします。
目次
1. 防災マップとは？基本の「き」
防災マップとは、災害発生時に住民が安全に避難するために必要な情報を地図上に示したものです。一般的には「ハザードマップ」と呼ばれることも多いですが、実は両者には微妙な違いがあります。
防災マップとハザードマップの違い
防災マップ：災害発生時の避難行動に重点を置いており、避難場所や避難経路が主に記載されています。地域の防災設備や避難時の注意点なども含まれます。
ハザードマップ：自然災害のリスクを視覚的に示すことに重きを置いており、被害想定区域や危険箇所が詳細に記載されています。洪水や土砂災害などの災害種別ごとに作られることが多いです。
つまり、ハザードマップは「どこが危険か」を示し、防災マップは「どう行動すべきか」という情報を提供するものと言えます。多くの自治体では、これらの情報を組み合わせた総合的な防災マップを作成・配布しています。
2. 防災マップの種類と特徴
防災マップには様々な種類があり、それぞれ対象とする災害や目的によって内容が異なります。主な種類と特徴を見ていきましょう。
災害別のハザードマップ
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 洪水ハザードマップ | 河川の氾濫による浸水被害の可能性があるエリアを示します。浸水の深さを色分けで表示することが多いです。 |
| 土砂災害ハザードマップ | 土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域を示し、崖崩れや地滑りのリスクがある場所を表示します。 |
| 津波ハザードマップ | 津波による浸水想定区域や浸水の高さ、津波到達予想時間などを示します。沿岸部の自治体で作成されています。 |
| 地震ハザードマップ | 地盤の揺れやすさや液状化の危険度、建物倒壊の危険度などを地図上に示します。 |
| 火山ハザードマップ | 火山噴火によって影響を受ける範囲や避難経路などを示します。火山周辺の自治体で作成されています。 |
目的別の防災マップ
- 避難所マップ：災害時の避難場所や避難所の位置、収容人数、設備などを示したマップ
- 防災資源マップ：防災倉庫、AED、消火器、防火水槽など防災に役立つ設備の位置を示したマップ
- 自主防災マップ：地域住民が独自に作成する、よりきめ細かい情報を含んだマップ
- マイ防災マップ：個人や家族が自分たちの避難計画に基づいて作成する独自のマップ
3. なぜ防災マップが重要なのか
防災マップは単なる「地図」ではなく、あなたと家族の命を守るための重要なツールです。その重要性について見ていきましょう。
防災マップの5つの重要な役割
1 災害リスクの「見える化」
どの地域にどのような災害リスクがあるかを視覚的に理解できるため、危険への意識を高めることができます。ハザードマップを見ることで、自宅や職場、学校など日常生活圏内における災害リスクを具体的に把握できます。
2 的確な避難行動のガイド
災害時には冷静な判断が難しくなります。事前に避難場所や避難経路を確認しておくことで、いざというときに迷わず避難することができます。特に夜間や悪天候時には、日頃から確認していた避難経路が命を救います。
3 「防災意識」の向上
普段から防災マップに触れることで、地域の危険性や災害への対策を考えるきっかけになります。防災マップを家族で確認することは、家族全員の防災意識を高める良い機会になります。
4 地域コミュニティの防災力向上
自主防災マップの作成などを通じて、地域住民同士のつながりが生まれ、地域全体の防災力が高まります。特に災害時に支援が必要な人（高齢者、障害者、小さな子どもがいる家庭など）の把握にも役立ちます。
5 迅速な避難判断の支援
警戒レベルと合わせて防災マップを活用することで、「いつ」「どこへ」避難すべきかの判断をサポートします。特に近年の気候変動による災害の激甚化に対応するためには、迅速な避難判断が不可欠です。
重要な注意点
防災マップに色がついていないエリアが必ずしも「安全」というわけではありません。想定を超える災害が発生する可能性や、複合災害のリスクもあることを忘れないでください。防災マップは「最低限」の情報であり、実際の状況に応じた判断が必要です。
4. 防災マップの正しい活用方法
防災マップを手に入れたら、次は正しく活用することが大切です。効果的な活用方法をステップバイステップでご紹介します。
防災マップの基本的な使い方
- 自宅の位置を確認する
まずは防災マップ上で自宅の位置を正確に把握しましょう。 - 自宅周辺の災害リスクを確認する
自宅周辺にどのような災害のリスクがあるか確認します（浸水、土砂災害、地震による揺れやすさなど）。 - 近くの避難所や避難場所を確認する
複数の避難所の位置を確認し、それぞれへの経路を頭に入れておきましょう。 - 避難経路を設定する
自宅から避難所までの安全な経路を複数設定しておきます。浸水が深い場所や土砂災害の危険な箇所は避けましょう。 - 実際に避難経路を歩いてみる
設定した避難経路を実際に歩いて確認することで、所要時間や危険箇所を把握できます。
災害発生時の防災マップの活用法
警戒レベルと防災マップの連携
2019年から導入された5段階の「警戒レベル」と防災マップを組み合わせることで、より的確な避難判断ができます。
- 警戒レベル3（高齢者等避難）：防災マップで確認した避難経路に従って、高齢者や障害のある方は避難を開始
- 警戒レベル4（避難指示）：防災マップで確認した避難所へ全員避難
- 警戒レベル5（緊急安全確保）：すでに災害が発生している状況。防災マップで確認した知識をもとに、命を守るための最善の行動を
平常時の防災マップ活用法
- 家族会議での活用：防災マップを家族で確認し、避難計画を立てましょう
- 防災グッズの準備：災害リスクに応じた防災グッズを準備する参考にしましょう
- 住まい選びの参考に：新しい住まいを探す際の参考資料として活用しましょう
- 保険加入の判断材料に：災害リスクに応じた保険の検討に役立てましょう
- 地域の防災活動への参加：防災マップを通じて知った地域の課題を解決するための活動に参加しましょう
実践アドバイス
防災マップは見るだけでなく「使う」ものです。定期的に家族で確認し、季節の変化や周辺環境の変化に合わせて避難計画を見直しましょう。また、スマートフォンに防災マップアプリをインストールしておくと、いつでも確認できて安心です。
5. 自分だけの防災マップを作ろう
自治体が作成する防災マップは一般的な情報を提供していますが、それをベースに自分や家族だけの「マイ防災マップ」を作成することで、より実践的な防災対策が可能になります。
マイ防災マップ作成の手順
1 基本となる地図の準備
自治体が配布しているハザードマップや、国土地理院の地図などを基本図として用意します。白地図に自分で情報を記入していく方法もあります。
2 災害リスクの確認
「重ねるハザードマップ」などを活用して、自宅周辺の災害リスク（浸水想定、土砂災害警戒区域など）を確認し、マークします。
3 避難所・避難場所の確認
指定避難所や避難場所を確認し、地図上に記入します。災害の種類によって適切な避難先が異なる場合があるので注意しましょう。
4 避難経路の設定
自宅から避難所までの経路を複数設定します。このとき、浸水想定区域や土砂災害警戒区域などを避けるようにします。
5 危険箇所・注意点のチェック
実際に避難経路を歩いて、危険箇所（崖、狭い道、倒れやすいブロック塀など）や注意点を確認し、地図に記入します。
6 地域の防災資源の記入
AED、消火器、防災倉庫、給水スポットなど、災害時に役立つ設備の場所を記入します。
7 家族の集合場所・連絡方法の記入
家族が離ればなれになったときの集合場所や連絡方法を決めて記入します。
デジタルツールを活用したマイ防災マップ作成
近年は、デジタルツールを活用して簡単にマイ防災マップを作成できるようになっています。
- 「重ねるハザードマップ」：国土交通省が運営するウェブサイトで、様々な災害リスクを重ねて表示できます
- 「デジ防マップ」：RainTech社が提供するサービスで、独自の防災マップを作成できます
- 「マイ・タイムライン」アプリ：避難のタイミングと行動を時系列で整理できるアプリです
- 地図アプリの「マイマップ」機能：Googleマップなどのマイマップ機能を活用して独自の防災マップを作成できます
マイ防災マップ作成時の注意点
マイ防災マップは定期的に更新することが重要です。道路工事や新しい建物の建設などで避難経路が変わることもあります。また、季節によって通行できる道が変わることもあるため、定期的な見直しを心がけましょう。
6. 最新デジタル防災マップの活用法
2025年現在、防災マップはデジタル化が進み、より使いやすく、情報も最新のものに更新されるようになっています。ここでは、最新のデジタル防災マップとその活用法をご紹介します。
主要なデジタル防災マップサービス
| サービス名 | 特徴 | 利用方法 |
|---|---|---|
| ハザードマップポータルサイト （国土交通省） |
全国の様々な災害リスクを一元的に確認できる公式サイト。「重ねるハザードマップ」機能が人気。 | ウェブブラウザからアクセス可能。スマホからも閲覧できる。 |
| 全国ハザードマップ （NHK） |
NHKが運営する災害シミュレーションの結果を表示したマップ。視覚的にわかりやすい。 | ウェブブラウザから利用可能。 |
| 防災DXサービスマップ | 防災に役立つデジタルサービスを集めたポータルサイト。平時から復旧・復興までフェーズごとに必要なサービスを紹介。 | ウェブブラウザから利用可能。 |
| 東京被害想定デジタルマップ | 東京都が提供する、個人の住環境や条件に合わせた被害想定を作成できるサービス。 | ウェブブラウザから利用可能。スマホ対応。 |
デジタル防災マップの活用方法
- 現在地の災害リスクをリアルタイムで確認
スマートフォンのGPS機能を活用して、現在地の災害リスクをその場で確認できます。 - 複数の災害リスクを重ねて表示
「重ねるハザードマップ」では、洪水、土砂災害、津波などの災害リスクを重ねて表示できるため、複合的なリスク評価ができます。 - 最新の災害情報と連携
デジタル防災マップは気象情報や災害情報と連携しているものもあり、リアルタイムの状況判断に役立ちます。 - 避難経路のナビゲーション
一部のアプリでは、避難所までの最適なルートをナビゲーションしてくれる機能もあります。 - 家族や地域での情報共有
作成した防災マップをSNSやメールで家族や地域コミュニティと共有できます。
デジタル防災マップのメリット
- 最新情報への自動更新が可能
- 位置情報と連携して現在地の危険度がわかる
- 複数の災害リスクを簡単に重ねて表示できる
- 避難所の混雑状況などリアルタイム情報を取得できる可能性がある
- 視覚的にわかりやすく、拡大・縮小も自在
デジタル防災マップ利用時の注意点
災害時はネットワークが遮断されたり、バッテリー切れで利用できなくなる可能性があります。紙の防災マップも併用し、重要な情報は事前に確認・記憶しておくことが大切です。また、最新の情報に更新されているか定期的に確認しましょう。
7. 防災マップ活用事例
防災マップは全国各地で様々な形で活用されています。ここでは、特に参考になる事例をいくつかご紹介します。
自治体の取り組み事例
清須市の「逃げどきマップ」
愛知県清須市では、2000年の東海豪雨で市の全域が浸水する被害を受けたことを教訓に、「逃げどきマップ」を作成しました。このマップは、単に危険区域を示すだけでなく、「いつ逃げるべきか」という避難のタイミングを明確に示している点が特徴です。浸水の深さに応じた避難方法や、避難開始の目安となる水位なども示されており、住民の具体的な行動計画につながっています。
鹿児島市の「3D防災マップ」
鹿児島市では、従来の平面的なハザードマップに加えて、3Dで災害リスクを可視化した「3D防災マップ」を作成しています。特に火山災害や土砂災害のリスクが高い地域において、立体的に災害の影響を示すことで、住民の理解を深める効果があります。また、VR技術を活用した疑似体験も提供しており、災害のリアリティを体感できる機会を設けています。
地域コミュニティの取り組み事例
「まち歩き」から生まれた地域防災マップ
長野県松本市の一部地域では、住民が主体となって「防災まち歩き」を実施し、独自の防災マップを作成しています。地域の高齢者が持つ過去の災害経験や、子どもたちが発見した身近な危険箇所などを地図に反映させることで、世代を超えた防災知識の共有が実現しています。このマップは定期的に更新され、新しい住民への防災オリエンテーションにも活用されています。
小学校での防災マップ作り
兵庫県神戸市の小学校では、総合学習の時間を利用して児童が地域の防災マップを作成する取り組みを行っています。子どもたちが地域を歩いて防災の視点で観察し、気づいたことを地図にまとめることで、防災教育と地域理解の両方が深まっています。完成した防災マップは地域の掲示板や回覧板で共有され、地域全体の防災意識向上にもつながっています。
企業の取り組み事例
社員の安全を守る企業防災マップ
大手製造業A社では、事業所周辺の災害リスクを詳細に分析した企業独自の防災マップを作成し、社員に配布しています。このマップには、通常の避難所情報だけでなく、社員の通勤経路上のリスクや、帰宅困難時の一時待機場所、社内の防災設備などが詳細に記載されています。また、スマートフォンアプリと連携し、災害時には社員の安否確認や避難誘導にも活用されています。
あなたにもできること
これらの事例を参考に、ぜひあなた自身でもマイ防災マップの作成や、地域の防災マップづくりに参加してみましょう。子どもと一緒に通学路の防災マップを作ったり、町内会で防災マップ作成ワークショップを開催したりするのも良いアイデアです。実際に行動することで、防災意識が高まり、いざというときの行動力につながります。
8. まとめ：今日から始める防災対策
本記事では、防災マップの基本から最新のデジタル活用法、実際の事例まで幅広くご紹介しました。最後に、防災マップを活用した防災対策をすぐに始めるためのアクションプランをまとめます。
防災マップ活用のためのアクションプラン
1 今すぐできること（24時間以内）
- お住まいの自治体のハザードマップを入手する（役所のウェブサイトで検索）
- 「ハザードマップポータルサイト」で自宅周辺の災害リスクを確認する
- 家族に防災マップの存在と重要性を伝える
2 今週中にできること（1週間以内）
- 防災マップを基に、自宅から最寄りの避難所までの経路を実際に歩いてみる
- 家族で防災マップを見ながら避難計画を話し合う
- スマートフォンに防災マップアプリをインストールする
3 今月中にできること（1ヶ月以内）
- 自分だけの「マイ防災マップ」を作成する
- 隣近所や町内会で防災マップを共有し、地域の危険箇所について話し合う
- 災害リスクに応じた防災グッズを準備する
4 定期的に行うこと（年に2回程度）
- 防災マップの情報が最新かどうか確認する
- 季節の変化に応じた避難経路の見直しをする（雪の季節は通れない道があるかもなど）
- 地域の防災訓練に参加し、実際に防災マップを使って避難する
いざという時のために、今日から行動を始めましょう
大切なのは「知る」だけでなく「行動する」こと。この記事を読んだ今日、ぜひ一つでも防災アクションを起こしてください。
お住まいの地域の防災マップをまだ確認したことがない方は、ぜひ自治体のウェブサイトやハザードマップポータルサイトで確認してみましょう。そして、家族や大切な人と防災について話し合う時間を作ってください。
「備えあれば憂いなし」—災害は予測できなくても、備えることはできます。
この記事は防災の専門家監修のもと、最新の情報をもとに作成していますが、実際の災害時には状況に応じた判断が必要です。常に最新の情報を確認し、自治体からの指示に従うようにしてください。
